でも世の中は大きく変わろうとしているようです。
「種子法」とは、米・麦・大豆など主要農作物の種子を国・都道府県が責任をもって維持・供給することを定めた法律で、公的な予算の下で各都道府県で地域にあった多様な品種が開発され、農家は公共の種として安くその種を買うことが出来、またその種をもとに自家採種をすることができました。
コシヒカリや、ササニシキ、あきたこまちなど数々のお米の品種はこの制度の下で育成されてきた歴史があり、よろこぶつち農園では直接種を買っているわけではありませんが、ササニシキを栽培していますので恩恵を受けているわけです。
しかし、政府は「民間企業の参入を阻害している」として、十分な審議も説明もないままこの3月をもって種子法を廃止してしまいました。
そのことが私たちの暮らしや日本の農業にどんな影響をもたらすのか、印象に残った点を書き留めたいと思います。
TPPは基本的にあらゆる分野で規制を撤廃してグローバル企業が自由に活動できるようにすることが原則となっています。
つまり、モンサントやモンサントとタイアップしている住友化学など種子の分野のグローバル企業が参入してくることは確実で、これまであった公共の種は法的・予算的根拠を失うため徐々に姿を消し、私企業による種にとってかわられていく可能性が高いということです。
事実、種子法廃止に伴う農水省の通達や、「農業競争力強化支援法」で都道府県はいずれは今まで培ってきた種子やその育成のノウハウなどを民間企業に提供することと明記されています。
これまで国民の税金で育成してきた種やそのノウハウを有償なのか無料なのかどうかわかりませんがグローバル企業に提供するってどうなの?という疑問が…。
TPP協定が発効し、公共の種が姿を消し民間企業が種を握ることによって心配されることとして、まず種の価格が大幅に上がることが予想されています。
また、これまで各地域で育成されてきた多様な品種が採算が合わないものを中心に淘汰されてしまうであろうこと。
そして、今のところ日本では遺伝子組み換えの稲や大豆は栽培されていませんが、近い将来一般的に栽培されるようになる可能性も高いです。
既にモンサントは遺伝子組み換えの稲を日本国内で試験栽培していて、承認されるのを待っている状態だそうです。
また種子が企業の所有物であり特許物ということになり、農家による自家採種という行為もできなくなる可能性もあります。
みんなの種から私企業の種へ、何とも窮屈な世界です。
それにしてもTPP協定については他にも気になることがいっぱい。
「自由貿易」を錦の御旗に農や食の安全を守るための規制やルールが撤廃されてしまうことになりそうです。
既に日本には遺伝子組み換え食品が輸入され様々な加工食品に使用されているのですが、さらに多くの遺伝子組み換え食品が大量に輸入されるようになりそうです。
そして遺伝子組み換え表示や国産表示、産地表示をすることも制限されてしまう可能性もあるとのこと。
米韓FTAで先行する韓国では地産地消の学校給食の取り組みなども出来なくなっているそうです。
また、既にTPP発効に先立って残留農薬の規制値も大幅に緩和されていて、特にグリサホート(除草剤)の残留基準値の緩和ぶりは異常です。
遺伝子組み換え技術と除草剤はセットになっているということもありますが、近年アメリカでは遺伝子組み換えでない小麦畑に収穫前に除草剤を散布して枯らして乾燥させ、コンバインで収穫するという方法が広がっていて、それに対応したものではと言われています。
その小麦がパンやめん、お菓子などの原材料として入って来るのかと思うとぞっとします。
遺伝子組み換え食品や農薬残留した食品が大量に入ってくるという時代になりそうです。
一方、アメリカやヨーロッパでは遺伝子組み換え食品や農薬が健康を害することが医学界も含めて広く知られるようになり、消費者の危機意識も高まっているそうです。
私も具体的なメカニズムは初めて知ったのですが、遺伝子組み換えコーンはそれを食べた虫の腸を破壊することで虫を殺す殺虫作用があるのですが、虫だけでなく人間を含む哺乳類の腸にも大きなダメージを与えることが分かってきたそうです。
また、グリサホート(除草剤)は植物がアミノ酸を作る経路を破壊することで草を枯らすので人間を含む哺乳類には安全であるとメーカーは主張して来ましたが、哺乳類の腸内に入ると植物と同じアミノ酸経路を持つ腸内細菌を殺してしまうことが判明。
消化吸収機能や免疫機能をつかさどる腸や腸内細菌がダメージを受けることで各種ガン、糖尿病、自閉症や自己免疫疾患に生殖障害など様々な病気を引き起こすことが分かってきたそうです。
ちなみにグリサホート(除草剤)は日本ではラウンドアップなどの商品名でホームセンターで当たり前のように売られていて、時期になるとあちこちで草が茶色く枯れています…(涙)。
ヨーロッパでは世論の強い力でグリサホートやネオニコ農薬の規制が始まっています。
アメリカでは子育て世代のお母さんたちを中心に消費者運動が盛り上がり、NonGMO(遺伝子組み換えでない)食品やオーガニック食品の需要が高まり、スーパーに行けば当たり前のように売られているとのこと。
それはとても喜ばしいことなのですが、行き場を失った遺伝子組み換え食品がTPPをてこに日本に流れ込んでくるのではと懸念されています。
それを押し返すことが出来るかどうかは私たち日本の消費者にかかっていますが、現状ではマスメディアでの報道も少なく、医学界も無関心、状況は厳しいと言わざるをえません。
希望としては種子法廃止を懸念する声が農業関係者を中心にあり、新潟県など一部の自治体でこれまでどおり公共の種子を維持していくことが条例として可決され、ほかの自治体にも広がる動きがあるということです。
様々な問題があるTPP協定、個人で防衛できることにも限界があります。
今回の講演会も大きな会場に立ち見が出るほどたくさんの人が集まっていました。
私個人でできることは自然栽培のお米や大豆をきちんと生産して少しでも多くの方に提供していくこと、縁ある人に伝えていくことしかありませんが、少しでも多くの人が事実を知ってヨーロッパやアメリカのような大きな動きにつながっていってほしいなと思います。